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映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』ほぼ真実という内容がジュディ・デンチさんの演技でさらに真実味が増していると感じました

※ 記事内に商品プロモーションを含んでいます

現在公開中の『ヴィクトリア女王 最期の秘密』を観てきました。

今作でヴィクトリア女王を演じたジュディ・デンチさんは、『チューリップ・フィーバー』という作品にも出演されていまして。その役柄が私は大好きだったので、もっと出演シーンが多ければなぁ!と残念に思っていたのですが。その希望は思いがけずこの作品で叶いました。
もちろん役柄は違うのですが、人を見抜く目、誰に対しても物怖じせず、老獪といっては叱られそうだけれど窮地に陥っても人の心を掴み駆け引きができる頭の良さ。デンチさんの演技が素晴らしかったです。

途中からネタバレしつつ感想を書いていきます。

ネタバレなし感想

映画の冒頭「この作品は、ほぼ真実です」といった字幕が出てきます。
さらに真実味を増すようなジュディ・デンチさん演じるヴィクトリア女王の堂々たる姿。もしかしたら、本当にこんな感じの方だったのかも、と納得してしまうほど。デンチさんが以前にもヴィクトリア女王を演じたという作品『Queen Victoria 至上の恋』を見てみたくなりましたが、DVDになっていないようで残念!

女王の公務での姿はもちろん、普段の生活の様子も垣間見ることができ、一見すると何不自由ない生活に見えるけれど、長い長い63年と7ヶ月という在位を守り続けることの彼女なりの努力と葛藤、そして様々な思いをごく近くで見ているかのようでした。物語は68歳で即位50周年を迎えた女王の姿から始まり、過去の出来事はほぼでてこないのでヴィクトリア女王についてほぼ何も知らないに等しい私でも特に困ること無く見ることができました、前半は。

ただ恥ずかしながら歴史に疎い私は後半になって、この映画の肝である部分を知らなかったので。もう少しでも知識があれば……という部分もありました。けれどもクスっと笑ってしまう場面や、女王の心境の変化、女王の言動に振り回される周囲の人々の黒い思惑にハラハラし、そして歴史ものを見ているとどうしても感じる「もしも……」と考える部分もあり。今一度、じっくり観たいと思う作品でした。

カレーの歴史について調べていたインドのジャーナリストの方が偶然発見し、約百年ぶりに明らかになったというヴィクトリア女王とアブドゥル・カリムの物語。興味のある方は、その豪華な衣装や実際にヴィクトリア女王が愛したという離宮”オズボーン・ハウス”での撮影も含む見事に再現されたヴィクトリア朝の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょう。

主な登場人物

役 名 俳 優 役どころ
ヴィクトリア女王 ジュディ・デンチ ヴィクトリア女王
アブドゥル・カリム アリ・ファザル 女王の即位50周年記念に作られた金貨を渡すため、インドから英国へ派遣されたインド人
バーティー エディ・イザード ヴィクトリア女王の息子。のちのエドワード7世。
ヘンリー・ポンソンビー ティム・ピゴット=スミス 女王の秘書
ソールズベリー マイケル・ガンボン 首相
ジェームズ・ライド ポール・ヒギンズ 医師
モハメド アディール・アクタル アブドゥルと一緒に英国へ派遣されたインド人

 

あらすじ

1887年はヴィクトリア女王の即位50周年にあたり、様々な記念式典が準備されていた。インドに住む若者アブドゥル・カリムは、式典で記念金貨“モハール”を献上する役目に任命され、同じ役目を仰せつかったモハメドと共に英国へ渡ることになる。
ヴィクトリア女王は御年68歳で分刻みのスケジュールをこなし、政治や宮廷内での問題に疲れを感じていた。金貨を献上しにきたアブドゥルを気に入った女王の命令で、祝典期間中アブドゥルとモハメドは従僕として女王に仕えることに。
インド皇帝という地位にありながら、一度もインドへ行ったことのない女王にアブドゥルはいかにインドが素晴らしいかを語り、インドに興味を持った女王は彼からインド語(ウルドゥー語)を習うなど次第に打ち解けていく。しかし、その2人の関係をよく思わない人々の不満が女王とアブドゥルの関係に影を落としていくことに……。

 

ここから先は映画のネタバレを含みます。未見の方はご注意ください!

 

ネタバレしつつ感想

アブドゥル・カリム

個人的に少し物足りなく感じた部分はアブドゥルの本心がよく分からなかったところです。目を合わせちゃいけないと散々言われていたのに、女王を見て目があったら微笑むとか。女王の足にキスするとか。それらの行動は純粋に女王を尊敬していたからで、その無邪気な彼の姿が本当の彼の姿と受け取って良いのか。

それとも、同じく金貨を渡す役目で渡英したモハメドが言ったように、アブドゥルは出世を望んでいて彼自身の才能と努力とでその階段を登っていった、のか。嘘はついていないけれど、自分は物を書く仕事だ、と物書きのように説明したりするのも、どこか自分は知識がある人間でお役に立てますよ、的なことを売り込むためだったのかしら??とか。ちょっと、彼の本心が私には分かりづらかったです。うーん、あんまりアブドゥルに出世欲がないように私には見えたのですが。はて。

出世欲うんぬんは置いておくにしても、ちょっと自己中心的なところを感じてしまって申し訳ないけれどあまり好感が持てる役柄ではありませんでした。(あくまで役柄の話で、演じた俳優さんが悪いという訳ではありませんので!!)
というのもアブドゥルは女王と話もできて出世もして、まぁ女王の取り巻きたちからは冷たくされたところはあったかもしれないけれど、結構楽しそうで。でもモハメドは、ずーーーーっとインドへ帰りたがっていたのにアブドゥルは自分の世話係みたいにしちゃってモハメドは帰れなかったし。なおかつモハメドはイギリスの寒さで弱っていったのにロクに治療も受けさせてもらってない。なのに、お葬式の場で「すまない友よ」って。その一言だけ?!と。そういえば、フィレンツェへ行く列車の旅で自分はベッドに眠れるのに、その友に向かって「立派な寝床もあるじゃないか、床が」って。床ですよ!!自分はベッドなのに!!信じられない。モハメドを友と思うなら、友の希望であるインドへ帰れるようにしてあげればよかったのに。なんて。実際、モハメドのような人物が実在したかどうかは不明なのですが。原作が翻訳されたら読んでみたいなぁと思っています。

 

それにしても、モハメドは代役なんですよね。本当は、アブドゥル同様に背の高い人物が選ばれていたのに、その人が象から落ちて怪我してしまったのでその代役ではるばる8000キロも旅して、そして自分の嫌いな土地で亡くなってしまう。もしも、本来選ばれていた人が象から落ちなかったらモハメドは自分の故郷で暮らせたし、もっと長生きできたのかもしれない。もし象から落ちなかったら、その人が金貨を女王に渡すことになって、でも彼は女王と目を合わせるようなことをしなくてアブドゥルも自分をアピールできなくて即刻帰国していたかもしれない。本当に歴史というのは、奇妙な偶然が作り出すこともあるんだな、と思いました。

ヴィクトリア女王

最初に登場してからは、なかなかお顔が見えないのがにくい演出だなぁ、と。しかも、いびきをかいて寝ている姿から始まり、抱き起こされ、やっとこさっと歩く感じで。ようやく見えたお顔も、不機嫌の塊という感じ。でも食欲旺盛で、早食い。こ、これがヴィクトリア女王??と。

そして作法をわきまえず自分と目を合わせてくる、どこの馬の骨とも知らぬインド人を睨みつける、あの目。マンガならばクワッ!!とか書いてありそうな。集中線が入ってそうな。身体は弱ってはいるけれど、まだまだ女王健在ということが分かるシーンでゾクゾクしました。

それからが凄かった。デンチさん演じる女王が凄かった。自分の好きなアイドルを見つけた少女のようにアブドゥルと楽しく会話し、言葉を習うために特別にノートまで用意させちゃう女王。そのイキイキとしたお姿に、人間はいくつになってもトキメキ、興味を持てることができると好奇心旺盛になれるんだな、と。
女王の周囲に沢山ひとはいるけれども女王のご機嫌を取ることが第一な人々ばかりで、なかなか気さくに話せる相手がいなかったんだなぁ、と。アブドゥルと二人きりになった場面で、女王が自分を”囚人”と語るシーンが印象的でした。権力を維持して何もかも思いのままに見えて、でも宮廷のしきたりに縛られ女王としての責任があり。子どもたちは独立し、次期国王の皇太子は問題行動ばかり。何でも対等に話し合えたであろう夫も亡くなり、その後に寵愛した従僕も亡くなり。ずっと女王は立場を脇において純粋に対等に話せる相手を探していたんだろうな、と。そこにアブドゥルが現れ、物怖じせず自分の誇るものを堂々と語る彼の存在が珍しく、微笑ましく感じたのかもしれないな、と。

自分を尊敬してると言い、かつ自分の知らない土地や風習、宗教のことを教えてくれるムンシ(教師)としてアブドゥルに夢中な女王。どうなんでしょう、恋心みたいなものを抱いていなかったといえば嘘になるのかな、と。というのも、アブドゥル本人に向かって「結婚してたなんて本当に驚いたわ」的なことを繰り返し言うぐらいだから、彼が既婚者だということを知るまではどこか恋心があったんだなぁ、と。はて、実際のアブドゥルはどこまで感じていたのかしら。女王だけど、気さくで優しい年配の女性というぐらいな感じだったのか……。

アブドゥルへの寵愛が行き過ぎると感じた息子たちに脅されるシーンで、淡々と自分の通してきた法案の数や、首相の人数を述べ自分が精神異常にされそうになったことへの怒りを顕にする女王。そして、堂々とやろうじゃないか、というように自分の世話をしてくれる人たちも集め対峙するシーン。女王の怒りつつも威厳に満ちた姿に圧倒されました。そして、自分も少し譲歩するところがさすが女王だな、と。

一度はアブドゥルを帰国させようとしたけれど引き止め、彼も側に居てくれると言ってくれたときは心強かっただろうなぁ。アブドゥルとの出会いで、心の活力を得た女王もやはり年齢には勝てず。どんどん一番最初に出てきた女王のように無表情な姿になっていくところが切なかったです。

結局14年ほど一緒にイギリスで暮らし、女王は亡くなる前に愛しい息子と語りかけていましたが、本当にそう思っていたのかもしれないな、と。実の息子よりも本音がいえて、弱音も聞いてもらえる相手。ただ、自分が死んでしまったあとのことを誰よりも心配していたとは思うのです。きっと、周囲の風当たりが強まるだろう、と。

そして彼女の死後直後から、すぐにアブドゥルを排除しようとする人物。それが、まさか実の息子だと知ったら……でも、女王は驚かないかもしれませんね。女王が亡くなってすぐにアブドゥルと女王に関するものを燃やしてしまうという、この恐ろしさ。もしかしたら、自分は本当の息子なのに、赤の他人、しかもインドでは下層階級の人間を息子同様、否、実の息子以上に扱う母親への復讐心なのかもしれないと感じました。

でも、そうやって封じ込めたはずの2人の関係がまさかカレーを調べていたときに見つかるなんてねぇ。本当に不思議です。

 

歴史

私が知らなくて、映画を見ながら???となったことは

1.”褐色のジョン・ブラウン”

女王がアブドゥルを寵愛する姿をみて、周囲の人たちが”褐色のジョン・ブラウン”だと揶揄するシーンがありました。はて、ジョン・ブラウン??どこかで出てきたかな??と思いましたら。ヴィクトリア女王は、1861年に旦那さんを亡くしてから10年ほど公務にも出られないほどショックを受けたそうで。引きこもっていては身体に悪いということで乗馬などをするようになったときに、馬係のジョン・ブラウンと出会った、と。ええ、ウィキペディアに書いてありました。で、その後、ブラウンを従僕として取り立てた、と。そういうことが前にもあったので、もしかしたらアブドゥルもブラウン並に力を持つんじゃないかと周囲の人々も警戒していたんだな、と。

ブラウンが亡くなったのが1883年。アブドゥルと出会うのは、その4年後なのですね。

2.インド大反乱

私が教科書で習ったときは”セポイの反乱”だったんですけど。ま、それはさておき。1857〜1858年に起こったインドでの反乱について、アブドゥルは事実とは違ったことを女王に説明した、らしく。らしく、というのはそのシーンを私はよく覚えていなくて。アブドゥルは彼自身がイスラム教徒だから、イスラム教徒を庇ったのかしら。この、イスラム教徒とヒンドゥー教徒の違いが理解できていなかったので映画を見ながら???と。

映画の最初の方から、アブドゥルもモハメドも英国で「ヒンドゥー教徒だ、ヒンドゥー教徒だ」って言われ続けるんですが。ふたりとも否定しないんですよね。わざわざ否定したところで、また同じことを言われるからなのか分からないのですが。でも、思い返してみればイギリスへと来る船のなかで「豚の血が入ったソーセージがうんぬん」って会話をモハメドがしていたな、と。つまり、2人はイスラム教徒であるということはそこで分かる人には分かってたんだな、と。

それにしても、女王だからといってすべてのことを正確に把握できる訳ではないのだな、というか。アブドゥルの言うことを何の疑いもなく信じてしまった女王。でも、女王はアブドゥルが嘘の説明をしたのは「私を守るためだったのね」と。でも自分は統治者で、だれも自分を守ることはできないみたいに語りかけていたなぁ、と。そこにも女王という立場の孤独さが滲み出ていたように思いました。

本筋とは関係ないけれど気になったこと

マンゴー。アブドゥルに教えてもらって、女王はさぞかしどんな味なのか気になったのではないでしょうか。せっかく取り寄せたマンゴーが腐っていたのは凄く残念だったから、怒ってましたよね。
その後、女王はマンゴーを召し上がる機会があったのだろうか、と。そもそも、マンゴーを取り寄せるように女王が言ったのは事実ではないのかもしれないけれど。少々、気になっております。

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コアラ
館ファン倶楽部の管理をしているコアラです。 週末は映画館か美術館にいることが多いので、家族からは「今日はどこの館(かん)へ行くの?」と聞かれるようになりました。 皆さんのお役に立てるような館情報を提供していけたらなと思っています。

POSTED COMMENT

  1. めい より:

    もし、ご存じでしたら本当に失礼で申し訳ないのですが
    アブドゥルなどの向こうの国の方は王族や目上の人に
    尊敬や敬意、親愛等を示す時には足に口付け(様々な仕方はあるようですが)の仕草をするようです。
    よければ、ご参考までに…

    • コアラ より:

      めい様、コメントありがとうございます。

      私としては、それを踏まえた上で”女王を尊敬していたから”という文章につなげたのですが
      伝わらない書き方で申し訳ありません。
      彼のそういった態度が、果たして本心だったのか出世欲だったのか、それとも両方だったのか。
      個人的には、そこが気になった作品でした。

      • めい より:

        それは、大変失礼しました(^-^;
        確かにあの映画は愛慕だったり親愛だったり尊敬だったり
        さまざまな思惑が垣間見えて
        観る側としては確かに少し戸惑う所が
        ありましたよね。
        個人的には女王役のデンチさんにあまりにも
        心惹かれて最後まで飽きるこなく見れたので
        好きな映画の1つになりました。
        質問したことでコアラさんが
        不愉快な思いをされましたら、本当にすみません。

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