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映画『スリー・ビルボード』が予測不能を上回りすぎた話②

※ 記事内に商品プロモーションを含んでいます

 

映画『スリー・ビルボード』が、あまりにも予測不能を上回る内容で引き込まれてしまったため長々とネタバレしつつ感想を書いております。
①は、こちらです。

映画『スリー・ビルボード』が予測不能を上回りすぎた話① 気になってはいたものの予告を見る限り主人公の女性が強そうというか怖そうだし、展開が辛すぎたらどうしようという気持ちで見逃していた...

 

今回は広告代理店の人、巡査、主人公について。

 

 

ここから先は映画のネタバレを含みます。映画を未見の方はお気をつけください

 

 

 

レッド・ウェルビー(広告代理店経営者)

『スリー・ビルボード』で、一番巻き込まれた感の強いウェルビー。

彼は有色人種差別を繰り返す警察に不信感を抱いていたきらいがあるし、主人公が警察を非難する(広告では問いかける形にはなっていたけれど実質上は非難)広告を出したいと言ってきたときは、どこか警察に一矢を報いるではないけれど少しは警察を懲らしめられるという気持ちもあったんだろうな、と。それと、あの広告がある場所は”高速ができてからは迷った奴かボンクラしか通らない道”。さほど大きな影響は出ないだろう、という考えもあったのかもしれないな、と思ってみたり。

広告がでてから実は署長が余命幾ばくもないことを知り、さすがにあの広告を出すのはどうかと思った彼は主人公に広告を取り止めさせるため、支払い条件をたてに広告継続を中止させようとするウェルビー。主人公と契約書を交わした以上、合法的に諦めさせるしかない。そのためには主人公が経済的に余裕があるわけではないので、広告代金が支払えないであろうことを見越しての策。さすがウェルビー、頭がいい。弁護士に相談したというのは本当かもしれない。そして、誰かの妨害がでないよう予め契約書を作成していた主人公の頭の良さも分かる部分だな、と。そんな広告をだしたら、きっと警察や警察、つまり警察からストップがかかることまで見越していたのですね。ただ、ウェルビーは警察に脅されたからではなく自分の良心の呵責に悩んだからという部分が主人公には伝わっていなかったような。もう主人公にとっては、すべての諸悪の根源は警察ですものね……。

”街中のみんなが署長は余命短いことを知っている”と主人公は言っていたけれど、ウェルビーが知らなかったのは個人的に納得。やはり町の噂ネットワークは女性陣のほうが強そう。

それにしても、署長が自殺をしたことでディクソン巡査に逆恨みされ殴られ、2階から落とされ、なおかつ殴られるという。もうその展開には、ただただ唖然。しかもバックにきれいな音楽が流れていて。その曲は、MONSTERS OF FOLKの “His Master”s Voice”というらしいのですが。ひたすら殴る、落とす、殴るにこの曲。あまりの落差にしばらくこの曲を聞いたらトラウマで固まってしまいそう。ディクソン巡査の耳に神の声が聞こえているわけもなく。

ディクソン巡査がウェルビーを殴ってさらに2階から突き落としたことはすぐに街中の噂となり、主人公の息子ロビーから主人公へと伝えられます。そのとき、主人公は息子にウェルビーの安否を聞くのですが、その返答が曖昧なんですよね。だから個人的には彼は絶命したのかと。

ですから、病院のシーンでは本当に驚きました。ウェルビーは生きていた!と。
ウェルビーは自分よりも重篤な人が自分と同じ病室に運ばれてきた、という認識ですごく優しく声をかけるんですよね。優しい。彼は本質的に優しい人なんだな、と。

そしたら、実は自分をひどい目に合わせた人間で、しかも相手はほぼ体の動きがとれない状態で。しかも火傷を負っているため両目しかでてないような状態で視界が極端に狭いんですよね。報復するにはベストタイミング、ちょっと悪魔に誘惑されそうな状況です。
なのに、ウェルビーは一時的に混乱するものの暴力をふるったりせず、最初に声をかけたようにオレンジジュースを用意する。しかも、何度も何度もストローがディクソンからそっぽを向こうとしてるのに、ディクソンが飲みやすいようにストローの口を直すところまでする。自分を不当に痛めつけた相手が、自分よりもさらにひどい状態で病院に担ぎ込まれてきた。もう自分が報復しなくても十分相手は罰を受けた、という思いなのでしょうか。

ウェルビーは、暴力には暴力で報復しない人物でした。この映画のなかでは珍しい(というか、主人公とディクソンの応酬が激しすぎるだけなんですが)”怒りは怒りを生ず”ことを誰よりも分かっていた人物。彼の脳裏に少しは報復という気持ちが生まれていたかもしれないけれど、すぐにその気持に打ち勝ったウェルビーにも幸せになってもらいたい。実在しないけれど。秘書のパメラと幸せになるのかな。なったらいいよ。

ジェイソン・ディクソン巡査

音楽大好きディクソン。ママも大好きディクソン。署長大好きディクソン。彼が、なぜあんなにも性格がネジ曲がってしまったのかは署長からの手紙でその一端が明らかになりました。
父親が亡くなり、母を養いながら苦労したことを労う署長。そして今のままではディクソンがなりたがっている刑事にはなれないだろう、と。憎しみも銃も必要ないと諭す署長。状況が悪かっただけで、本来のディクソンは良い人間なのだ、と。その言葉がもう少し早く届いていたら、彼がウェルビーを投げ飛ばす前に届いていたら、彼はいつか念願の刑事になれたかもしれない。少なくとも、憧れの署長のような立派な警官になれていたかもしれない。そう考えるとウェルビーを殴り飛ばしていたときに流れていた”His Master”s Voice”は皮肉な感じがします。

それにしても、署長が自殺したことを聞いて失神するだなんて相当なショックを受けたということですよね。死期が近いことを知ってはいて、心のなかでどこか準備をしていたであろうに。ただ、それだからこそ平穏に過ごしてもらいたかった最期の時間をあんな広告のために奪われて、という憎しみに転嫁してしまったのかな、と。広告を出した主人公を殴るのではなく、広告を掲載し続けているウェルビーに八つ当たり。恐ろしい。前々から気に食わなかった部分があったから、格好の相手だったんでしょうね。しかも、通りを挟んで向かい側にいるからとっ捕まえやすくて。可愛そうなウェルビー。

署長の言葉がディクソンに届いてから真犯人逮捕に向けての展開。彼の人生の再スタートかと思いきや、犯人は捕まらないし、確実な証拠もないのに男性を殺しに行こうとするディクソン。ぜんぜん変わってないじゃないか、と。確たる証拠もない上に、もし本当にあの男性が罪を犯しているのであれば裁くのは自分(と主人公)ではなく警察に任せるべきなのに。育ちすぎた憎悪の行き場を探してるとしか思えないディクソンと主人公。でも、ディクソンは署長に、主人公はジェームス、元夫とその同棲相手、そして息子の寝顔にもう自分たちの間違った選択と行動はやめるべきだと、終止符をうつべきだと気づいていると感じさせるようなラストで良かったなと私は思っています。

あと酒場で真犯人かもしれない人物の話を盗み聞きするシーン。疑わしい男性は見知らぬ女性を”燃え尽きるまでかわいがってやった”的なことを言ってました。これは単なる比喩だったのではないか、と。というのも、ディクソンは国語が苦手だったととあとで主人公に話していますよね。彼は男性の言葉をそのまま言葉を受け取ってしまったけれど、これは本当に燃やしたということではないんじゃないか、とか。ここは、あくまでも私の個人的な意見ですが。

ミルドレッド・ヘイズ(主人公)

一番最初に主人公が画面に登場するのは、車の中から古びた看板を見るシーン。彼女が髪をおろしている姿はその時だけ。
次にエビング広告社へ広告の依頼をしにいったときは、もう髪をアップにしてバンダナを巻き、つなぎを着て。終盤のレストランでのシーン以外は、ほぼバンダナ&つなぎのイメージ。自分が引き下がらないように闘志を奮い立たせるための戦闘服かのように見えました。

ミルドレッドは被害者の家族で同情すべき点はあるけれど、いくら警察の捜査が進まないからとはいえ

  • 警察署長を名指しで批判したともとれる看板広告を出す
  • 歯医者の親指にドリルで穴を開ける(まぁ、あの歯医者さんもろくに診察もせず、麻酔もせず主人公の歯を抜こうとしたから自業自得といえば自業自得なんですが)
  • 息子と同じ高校に通う学生が車に瓶を投げつけたからとはいえ、学生2人を蹴り倒す
  • 自分が出した広告に火をつけたのは警察だろうと思い警察署を放火する

もう、正直無茶苦茶だな、と思いました。主人公のテーマソングといい(サウンドトラックでの正式な曲名は”Mildred Goes To War)、メインとなる警察署と広告社が通り挟んで眼の前というコンパクトな位置関係、無法地帯に乗り込んでくるシェリフ(みたいな新警察署長)も登場して、これって西部劇なのでは??と。

看板に火を放ったのは警察に違いないとお返しに火炎瓶投げ込むわ、犯罪をしてるに違いないというディクソンの一方的な情報だけで疑わしい男性を殺そうと車に乗り込むわ。もうこれ以上、息子のためにも罪を犯さないで欲しいと拳を握りしめながら見てました。

そのなかでも、ちょいちょい彼女の優しさが出ているシーンが出てきますよね。

  • エビング広告社で起き上がれない虫を助ける
  • 警察署に2度電話をして、署内に人がいないことを確認してから火炎瓶を投げる
  • 鹿に「娘の生まれ変わりは信じない」と言いつつ見せる笑顔
    ところで、鹿ってキリスト教的にはどういう存在なんだろう?と本棚にあったこの本を見てみました。

    鹿は神聖視された動物でした。鹿は女神ディアナの持ち物とされたほか、キリストの象徴とみなされるなど(以下、省略)

    鹿に向かって「そうよ、まだ逮捕されていない。なぜかしらね。神はいないし世の中が荒んでいるから?」と語りかけているのはキリストとの対話的な意味合いがあるのかしら???教会には行かなくなったものの、どこか根本には宗教心を捨てているわけではないのかしら、とも思ってみたり。

  • 泣きそうな顔で息子の寝顔を見る

 

そして、ミルドレッドの頭の良さも。

  • 広告をだせば、また事件に世間の感心が戻り警察も動き出さざるを得ないかもという狙いは大当たり。
    ただし、警察は動き出したけれど広告を引っ込めようとする方向に動いたのが主人公にとって第一の誤算だったかもしれません。
  • 広告を出すにあたり、妨害を受けぬよう広告社と契約書をかわす。ただし、あとで広告代金のことで広告社から支払いを請求されピンチに。それも警察の妨害だと決めつけるミルドレッド。
  • 人を説得するのが仕事のような神父さんを黙らせる
    決まった服とアジトがあるから神父もギャングと一緒って、すごいですよね。

 

あとは、娘に対する懺悔の気持ちがすり替わってしまってるようにも感じてみたり。娘がマリファナを吸った罰で、車を貸さないというミルドレッド。
でも娘が丁寧に頼んできたら本当はタクシー代は渡すつもりだったのに、と。まぁ、でもあんな風に言われたら娘さんだって素直に「タクシー代ください」とは言えないだろうなぁ、と。

あの時、自分が車を貸していたらという自責の念。それなのに犯人への手がかりはゼロ。思い切って看板を出してみれば町民たちは自分の言動を非難するばかりだし、結局は捜査も進まない。元夫は一緒に悲しむどころか19歳の小娘と別れる気配もない、挙げ句に実は娘は母親と暮らしたくないといっていた、と元夫に言われる始末。でも、元夫が「お母さんはお前を愛してるんだから」と言って娘をなだめたとか言っていたのは、それは自分には同棲しているガールフレンドがいるから困る、娘とは一緒に暮らせない、というのが本音な気もするんですけど。それに酔った勢いで看板に火をつけたのも自分だってミルドレッドへ告白。やれやれ。
レストランでは、確実にワインの瓶で元夫を殴るつもりでいたように見えたミルドレッド。というのも瓶の持ち方が尋常じゃなかったから。でも結局は「その子を大事にして。いいわね?」と二人を祝福する言葉を残してレストランを去るミルドレッド。polioとpoloの読み方が分からない娘と元夫のやりとりを見ていて、何を主人公は思ったのか。この2人は釣り合っているんだ、という思いなのか。これ以上、この2人に関わっていてもなんの進展もないと見限ったのか。それにしても、ミルドレッドには暴力をふるっていたという元夫は今の彼女には手をあげていないのか。それとも、結婚したらそうなるのか……ちょっと想像すると怖いです。

そんなこんなで、突破口として看板をだしたものの、その後の出来事は最悪なことばかり。自分は娘を殺した犯人を捕まえて欲しいだけなのに、なぜ誰も協力してくれないのか、自分の味方をしてくれないのか、というやるせなさ、不満が、本来の懺悔の気持ちを吹き飛ばすぐらいの大きさになってしまったのかもしれない、と。

犯人かもと思われた人物は、自分の娘を殺していなくても他の誰かを傷つけたと決めつけて、自暴自棄マックスなミルドレッド&ディクソンのドライブになってしまったように思えて、もうこれ以上闇雲に進むのは……と思いつつ見ていました。
が、ミルドレッドが警察署に放火したのは自分だと告白すると、ディクソンは他に誰がいるんだ?と答えてミルドレッドを笑わせますよね。思わず笑ってしまうミルドレッド。そうだ、冷静に考えれば自分しかいないよな、と頭のいいミルドレッドは感じたのかも知れない、と。そして、ディクソンは自分が彼に火傷を負わせた(本当は、それが理由ではなく警察への警告・仕返しだけのつもりだったにせよ)にもかかわらず、それを知った上で、自分に協力してくれようとしたその気持ちが初めて分かった場面だったんだな、と。

疑わしい人物を殺すかどうかは道々考えよう、というところで映画は終わります。2人がそのままUターンして引き返してくれますように、と願わずにはいられませんでした。
家を出る前、無防備に眠る息子の顔を泣きそうな顔で見つめていたミルドレッド。もう、どこか自分の暴走を止めたいと心の底から思っていて、でもまだやり場のない怒りが残っていて、というギリギリのところかも知れず。

ディクソンだって、もう警察には戻れないだろうし。あの狭い街で、彼はどうやってこれから生きていくんだろうか、とつらつら考えてみたり。

 

真犯人

結局、犯人は誰だったのか。
映画の予告を見たときは、勝手ながら犯人探しがメインになるのかと思いきや。なんという展開。怒りの大きさが大きいほど、誰かの胸のうちにくすぶる火種にまで火をつけてしまう可能性があるという、その展開にただただ驚くばかり。怖いという感情が湧く隙間もないぐらいに、次々と連鎖する怒りの炎。

主人公の娘が殺されたのは、”高速ができてからは迷った奴かボンクラしか通らない道”。道に迷った人間が夜道を歩いてる主人公の娘に声をかけ、道を聞くふりをして襲ったのか。
しかし焼くことまで考えると、顔見知りだったからこそ入念に証拠を消し去りたい、ということも考えられ、あの町に住む人間なのか、とか。

いずれにせよ、主人公は犯人が逮捕されるまでは心の平穏が訪れることはないのだろうというところが切ないです。

映画で流れる歌に、大きなヒントが隠されているという解説を読みました。英語ができない私は、そこまで踏み込んで考えられなくて、本当に監督たちが狙ったところをどこまで分かっているんだろうか、と落ち込んだりもしたけれど。でも、こんなにも長々と感想を書いてしまうぐらいインパクトのある作品だったんだな、ということで自己決着。

気になる未公開シーン集

現在発売中の『スリー・ビルボード』Blue-rayには未公開シーン集が収録されているそうです。内容は下記の通り。

ウィロビーと報道陣
ミルドレッドと住民の確執
デニースの聴取
バーで泥酔するディクソン
ディクソンと母親

どれもこれも気になります。ウィロビー署長は詰めかけた報道陣たちに何を語るシーンだったのか、住民たちはどんな言葉を主人公にぶつけたのか、そして主人公はどう反撃したのっか。主人公の唯一の親友・デニースは何を語ったのか、ディクソンはもう十分登場したから未公開になったのかしら。

未公開シーンを見たら、また新しい感想が生まれそうな気もするのでBlue-rayを購入しようか迷い始めています。

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コアラ
館ファン倶楽部の管理をしているコアラです。 週末は映画館か美術館にいることが多いので、家族からは「今日はどこの館(かん)へ行くの?」と聞かれるようになりました。 皆さんのお役に立てるような館情報を提供していけたらなと思っています。

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