気になってはいたものの予告を見る限り主人公の女性が強そうというか怖そうだし、展開が辛すぎたらどうしようという気持ちで見逃していた映画『スリー・ビルボード』。
Amazonで”2018年話題作レンタル100円”というときがあったので、思い切ってレンタルしてみました。
実に予測不能、否、予測をする暇すらない作品でした。
1回では見落としている部分があるかもしれないと思ったので、1回めは字幕で、2回めは吹替版をレンタル。
なるほど、と納得した部分と、やはりそこは明らかにされてないのだなという部分。背景がものすごく描きこまれている訳ではないけれど、不足があるわけではなく、むしろそこを想像してみたり、考え込んでみたり。
もし、この作品が気になっているけれどまだ見ていないという方は、ぜひ本編をご覧いただきたく!
Contents
簡単に映画の主な登場人物紹介
役 名 | 俳 優 | 役どころ |
ミルドレッド・ヘイズ | フランシス・マクドーマンド | 物語の主人公。7ヶ月前に娘が何者かに殺害された。 |
ロビー・ヘイズ | ルーカス・ヘッジズ | 主人公の息子 |
アンジェラ・ヘイズ | キャスリン・ニュートン | 主人公の娘 |
ビル・ウィロビー | ウディ・ハレルソン | エビング警察の署長 |
アン・ウィロビー | アビー・コーニッシュ | 警察署長の奥さん |
ジェイソン・ディクソン | サム・ロックウェル | 巡査。ウィロビー署長を慕っている。 |
ディクソンのママ | サンディ・マーティン | 息子大好き |
チャーリー | ジョン・ホークス | 主人公の元旦那 |
ジェームス | ピーター・ディンクレイジ | ミルドレットに思いを寄せる男性 |
レッド・ウェルビー | ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ | 主人公に広告板を貸す広告代理店の経営者 |
あらすじ(ネタバレなし)
アメリカのミズーリ州のとある町の道路沿いに並ぶ3枚の広告看板。その看板に主人公ミルドレッド・ヘイズが広告を出すところから物語は始まります。7ヶ月前にミルドレッドは娘を何者かに殺害され、その捜査に進捗がないことから警察に向けて広告を出すのです。その行動に驚き怒りを感じた警察からも町の人達からも広告を取り下げるよう言われるも一歩も引かないミルドレッド。
周囲との孤立を深めるなか、犯人の手がかりを得たいというミルドレッドの思いとは全くかけ離れたことが次々と起こり始め……果たしてミルドレッドの願いどおり犯人を捕まえることはできるのか。
感想(ネタバレなしで書いたつもりなんですがネタバレだったらごめんなさい)
捜査の進展に一石を投じたい、娘を殺した犯人を捕まえて欲しい。その母親の気持は、広告を出したことによる周囲の反応からさらに強まっていきます。
登場人物たちの言動に驚き、え、そんなことに!?と正直思ったものの、どこか自分のなかで「ありえなくはないな」という気持ちもあり。自分が完全に八方塞がりな状況に陥ったら、果たしてどんな行動をするだろうか、それとも行動せずに終わってしまうのか。
ものごとが起きるタイミングと、周囲の対応が少しでも違っていたら、そこまでならなかったかもしれない。私の日常でも、もしかしたらすんでのところで回避されたことがあったかもしれない。そして、これからもそういうことがないとは言い切れない……。
主人公のような要素が自分のなかでもゼロではないという思いが、この作品をよりリアルに感じさせたのではないかというのが私自身の感想です。
最後の最後まで引き込まれる、見事としか言えないその展開ぜひ堪能いただきたいと思います。
ここから先はネタバレを含みますので、未見の方はお気をつけください!
どの人物の立場からみても、色々と考えさせられる作品でした。個人的に気になった役柄について感想を書きたいと思います。
息子のロビー
ある日、学校へと向かう車の中で彼は思いがけぬものを目にします。
もう何年も剥げかかった広告しか出ていなかったはずの3枚の看板。それが真っ赤な紙に黒い文字で何か書かれた看板に変わっていたのです。彼が見た最初の看板には「なぜ?ウィロビー署長」、2枚めは「犯人逮捕はまだ?」、そして3枚目は「レイプされて死亡」と。
看板は町に向かって3枚立っており、彼(と主人公)が住む町外れの家からは看板の後ろ側しか見えません。つまり、彼が看板の文字を見るには体を左側にねじるようにしないと見えないのです。いつもと同じ剥げかかったオムツの広告があるはずが、いきなり視界の隅に明るい赤色が飛び込んできたため彼も思わず目を止めたのではないでしょうか。
町から来た人たちが看板を見る順番は「レイプされて死亡」「犯人逮捕はまだ?」「なぜ?ウィロビー署長」となります。
驚きと非難するような目で、車を運転する母を見つめるロビー。でも母は何も言わず、彼も何も言わぬままに学校の前へ到着し乱暴に車のドアを閉めるロビー。
彼の姉(※1)が殺されたのです。しかも、レイプされ焼かれるという異常な方法で。彼自身、犯人が捕まって欲しいという気持ちは強いと同時に、もうどこか無かったことにというか無かったことには決してできないけれど、うわべだけでも平穏な生活に戻りたいという気持ちもあったのではないかと。
そこへ母親が自分には何の相談もなく挑発的な広告をだし、通学時には嫌でもその看板の横を通ることで事件を強烈に思い出すし、再びクラスメートや近所の人たちからの視線を集めることになってしまい、母の気持ちは痛いほど分かるけれど世間との板挟みに悩むロビー。
姉が本当は父親と暮らしたがっていたことを知っていたけれど、それを母親には黙っていて、そこでも板挟みだったロビー。あの家族のなかでは、一番大人にならざるを得なかったように思えました。
しかも、父親は母親と離婚して家を出ており自分がどこか母を守らなければいけないという気持ちもあるんだと思います。でも、母親がそんなに勝手なことをするのであれば今の自分の立場では守るには限度があるというやりきれない気持ちも含まれるんじゃないか、と勝手に彼の気持ちを想像してみたり。
車のドアや自分の部屋のドアを乱暴に締めることで自分の不満や、やるせなさを表現するロビー。
朝食のシリアルを母にわざとぶつけられてムッとするものの、母の子どもすぎる行動に思わず笑ってしまうロビー。
なんて良い子なんだろう。
でも、父親が激昂して机を薙ぎ倒し母親に詰め寄ったときは父親の首に躊躇することなくナイフを突きつけて仲裁に入るロビー。
きっと今までも父親が母親に向かって手をあげることがあり、そのたびに二人を落ち着かせようとしてきたんだろうな、と。それは父子が倒れた机を無言で元に戻す息の合った動作からも垣間見えた気がします。そして、何事もなかったように席に着く主人公。
元警官で母親に暴力をふるい、現在は19歳の彼女の同棲中の父親を、ロビーはどういう気持ちで見ているんだろうと思うと勝手ながら胸が痛みます。でも父親の同棲相手には、ちゃんと挨拶をするロビー、なんて良い子なんだろう。
母の出した広告が何者かに燃やされた時、彼はもうほとんど燃えてしまった広告を執拗に消そうとする母親に対して異常だと思った瞬間があったかもしれない、と。でも次の瞬間、泣き叫ぶような母の声に、初めて彼女の心の叫び、母も警察を挑発したくてしてるわけではなくこのまま事件を迷宮入りにさせたくない、八方塞がりな状況、そして彼女の中の罪悪感からの行動なんだなというのがロビーに伝わった気もします。
※1)作品を2回みましたが、結局ロビーにとって亡くなったのはお姉さんなのか、妹さんなのかハッキリとした発言はでてこなかったように思うのですが、もしかしたら私が見落としているだけなのかもしれません。
しかし、彼は母親に車で学校へ送迎してもらっていることから運転免許を持てる年齢ではなく。亡くなったアンジェラは母親に車を貸してくれるようお願いしている、すなわち免許がもてる年齢でありロビーのお姉さんとみるのが妥当かと思い、”姉”としました。
あと1つだけ。ロビーのセリフに「鳥は癌になるのか?」と母親に尋ねるシーンがありました。癌というのは署長のことを考えてのセリフだとは思うのですが、なぜこのセリフを彼が言ったのか、どういう気持だったんだろう、と今でもつらつら考えています。
署長
この作品では、突拍子もない行動を起こす人が主に3人でてきます。一人は主人公、もう一人は署長を慕うディクソン巡査、そして3人目が署長。
主人公が署長を名指しで非難する看板を出すぐらいだから仕事を怠けてるのかな、おまけに自分の死期が近いことを言い訳にして看板広告を撤回してもらおうと主人公に掛け合うなんて、なんという職務怠慢!と、やや憤慨しつつ見ていたのですが。
作品が進むうちに、彼は署内だけでなく町民たちからも人望が厚く、家族思いな人であることが分かってきました。
自分の死期が近いことを知ってて、自分(ならびに警察)を非難する広告を主人公が出したことに驚くとともに、実は町民たちが自分の病状を知っていたことが少なくとも彼が漠然と考えていたであろうプランに影響を与えたように思えました。
遺書の中で、彼は今後自分が病気で衰えていく様子や、自分の看病で疲れ切った家族の姿を見るのは忍びないといったことを書いています。元気そうで、幸せそうな自分を覚えていて欲しい。
そして、それはどこか部下や町民たちにも頼りがいのある自分の姿だけを覚えていて欲しい、という願いでもあったのではないか、と。
自分の病状が悪化し、もう自分の手では捜査が難しいことを悟った署長は自分の自尊心を傷つけたあの看板代を1ヶ月分提供することを決断。自分が悪者のように捉えられるのは我慢ならない反面、主人公の思い切った行動が注目を浴び、事件が風化されるのを防いだという事実を署長は主人公に対し認めています。
もちろん、あの看板が出続けることで主人公がますます町民たちから恨みを買うこと、また自分が自殺することで本当の署長の思いとは違うけれども、署長があの看板を苦に自殺したと捉える町民もいるだろう、と。だから「殺されるなよ」と冗談交じりに主人公への手紙に書いた署長。
自分の仕事ぶりをコケにしてきた相手に対しても安否を気遣う署長は、やっぱり懐の深い人なのかもしれないな、と。
それにしても署長が主人公へと宛てた手紙で、完全にミスリードされました。
署長は手紙のなかで
時には手がかりゼロの事件もある。
だが数年後に犯人が自分の犯行をバーや刑務所で自慢してあっさり解決することもある。アンジェラの件もそれを願う。
だから、映画の最後の方の展開で「もしや!」と思ってしまったんです。まんまと、この署長の言葉に乗せられてしまった自分。甘いな自分。
アバークロンビー
ウィロビー署長が亡くなり、その後任者として着任した新署長アバークロンビー。署に入る前に、自分の部下になるであろう人物の暴力行為を目の当たりにし、さぞ驚いたのではないかと。
彼の登場で、私のなかでは「彼こそが事件を解いてくれる!」という期待が高まりました。無法地帯と化した西部劇にでてくるようなこの街に、彼は新しいシェリフ(保安官)として颯爽と登場し、見事に事件を解決してくれるに違いない!と。
暴力巡査ディクソンを即座に首にし、広告が燃えてしまってガッカリしている主人公に対し「敵ばかりじゃないですよ」と。そう、このシェリフが主人公の味方となり犯人を見つけ出してくれるのだ!!(シェリフじゃないって)
しかし、残念ながら驚くほどに彼は活躍しないという。というか、活躍の場を与えてもらえなかったというか。私の淡い期待は、いとも簡単に消えたのでした。いやぁ、すごい脚本だなぁ。あの流れで登場したら、ねぇ、大活躍を期待しちゃいますよねぇ。私だけか。
アン・ウィロビー
署長の奥さんアン。
自殺した夫の頼みで、自分の夫を自殺に追い詰めたかもしれない相手に手紙を渡しに行くアン。この映画の流れだったら、主人公に暴力ふるいかねない感じだけれどそれはなくて安堵。むしろ、ならず者に脅されている主人公を知らず知らずに助けてしまう皮肉な展開。
彼女が旦那さんとの最後の会話のなかで「あなたの馬よ、撃ち殺したい」的なことを言うのですが、なんとまぁ恐ろしいことを。冗談とはいえ旦那さんが大好きな馬を殺すという発言はどうなのかと思うのですが、このセリフが署長の自殺を暗示する言葉でもあったのかもしれない、と。
署長が自殺したことを伝えるニュースのなかで署長の自宅が映るシーンがあり、そこに2頭の愛馬が小さく映っていました。あの2頭は、その後どうなったんだろう。旦那さんを思い出してしまうし、もともと好きではないからと手放してしまうんだろうか、などなどこれまた本筋とは無関係なことまで考えてしまうのでした。
ジェームス
ジェームス、あぁ、ジェームス。
チーズが大好きで、職業は中古車販売、お酒が大好き、そしてビリヤードの上手なジェームス。でもビリヤードが上手で、主人公のことを好き、ということしか最初は分からず。映画の終盤、彼の最後の登場シーンで彼の人となりが分かるという。
ジェームスは、頼りにならない他人に頼るよりも自分の力で切り開こうとする主人公のその潔さに惹かれたんだろうか。それとも警察相手にも怯まずに立ち向かっていく彼女の負けん気、そして再び事件を世間に思い出させたその手腕に感心したんだろうか。それとも、彼女が一人で懸命に2人の子どもを育ててる姿を見てるときから好きだったんだろうか。
いずれにせよ、ジェームスは本当に主人公を支えたいと願い、頼まれてもいないのに警察署を放火した主人公のアリバイを立証し、支えなくても大丈夫だと知っていたけれど彼女が広告を貼る時にハシゴを支え、食事に誘ったのも少しは彼女の息抜きになれば少しでも笑顔になってくれたらという真心だったんだろうな、と。
けれど残念ながら主人公はそんな気分でもなく、アリバイを作ってくれた単なるお礼としてレストランで食事することを承諾し、挙げ句にそのレストランに元夫が19歳の同棲相手と現れたことで、さらに主人公の気分は大荒れ。
今まで主人公を非難するようなことは一言もいわなかったジェームスにまで、ついに呆れられてしまう主人公。
ただ、誰も彼女にストレートに言ってくれなかったことをジェームスに言われたことで、どこか自分でも自分を止められなかった、意地になって突き進むしかなかった主人公にブレーキをかけてくれたんだろうな、と。完全に止るまではいかないけれど、かなり効き目があったことは、元夫とその同棲相手に向けられた一言に表れていたように思います。
ジェームスと息子のロビーが主人公のことを話したら、きっと分かり合えるんじゃないか、と思ってみたり。私のなかでは、幸せになってもらいたい2人です。実在しないけれど。
ウェルビー、ディクソン巡査、そして主人公について
なんだか、すごく長くなってしまったので一端ここで終了しまして。
続きで、広告代理店のウェルビー、ディクソン巡査、そして主人公について書こうと思います。